2019年1月1日 2:33 PM
JATA(日本旅行業協会)と日本旅行業女性の会は2018年11月、業界関係者向けに勉強会を開き、びゅうトラベルサービスの髙橋弘行代表取締役社長が、鉄道を生かした商品やウェブ化が加速する時代の事業戦略を語った。
びゅうトラベルサービスは、海外旅行事業を扱う「びゅうワールド」として1992年に発足し、今年で 26年目を迎えました。87年に国鉄が民営化され、東日本旅客鉄道(JR東日本)が発足して31年。JR 東日本発足の翌年に始まった国内旅行としてのびゅうブランドは30周年を迎えます。
びゅうワールドは当初、海外旅行にノウハウのな かったJR東日本が日本航空の協力を得ることから 始まり、海外パッケージツアーの企画造成、販売を行ってきました。16人ほどからのスタートで、JR東日本グループの旅行事業・観光事業を専業とす る会社として成長してきました。ここ数年でJR東日本の旅行事業の移管が進み、それに伴い、社員は900人と急速に増えています。
移管前は販売拠点のびゅうプラザが約100店舗あ りましたが、現在はその半分程度になっています。 オンライン旅行会社(OTA)の台頭やウェブ販売 の展開で、店舗で旅行商品を求める顧客は減少傾向にあり、販売チャネルの選択と集中を進めている 状況です。社員構成は出向社員がこれまでは大半を占めていましたが、設立から20数年が経ち、4分 の1ほどに減りました。
今の会社を担っているのは 全体の7割以上を占めるようになったプロパー社員です。今後は将来にわたり、プロパー社員が然る べきポストに就いてしっかり会社運営ができる体制 にしていくことが必要です。
鉄道会社の旅行会社ということで、JR東日本グ ループのなかで観光流動創造を担うのが、当社の 使命といえます。観光目的の利用客を増やすことは、新幹線の利用者を増やすことにつながります。魅力あるサービスの提供で、観光の継続的な流れをつく ることを目指しています。 当社エリアの新幹線で特徴的なのは、観光利用 の割合が多い点です。
東海道新幹線はビジネス利用が大半を占めますが、東北・上越・北陸新幹線 はビジネスと観光の需要が半々です。極端な話をし ますと、観光客がいなくなってしまうと、新幹線車 両「はやぶさ」10両のうち5両が空席となります。 そう考えると、観光の利用客に鉄道を利用しても らうということが、いかに大切なミッションか分 かっていただけるでしょう。
少子高齢化が進むなか、当社事業エリア内には 消滅可能性都市が山ほどあり、定住人口が減っていく問題が起きています。日本人だけでなく、訪 日外国人もそこに行って消費し、その地域が潤う。こうした観光による流動人口の創出は、そのよう な問題の解決に寄与すると考えています。
当社は首都圏という発地を持っている強みがあり、デスティネーションとしては東北や上信越があります。東北については東日本大震災から7年半経ち、ようやく震災前の状況に戻ってきました。日本人も訪日外国人もまだまだ増える余地がありま す。東北にメジャー観光地をつくることも非常に重要視しています。
JR東日本グループの旅行会社として、列車を活 用した商品は特徴的な部分です。団体臨時列車、 繁忙期に座席を有効活用した商品の拡充、鉄道の 旅の魅力を訴求する「のってたのしい列車」の利用商品造成も進めています。
「伊豆クレイル」は人気 が高く、売上高3億円を超えています。鉄道ファン 向けに商品も拡充していく方針です。30年の北海道新幹線・札幌延伸を見据え、18年10月には北海道に初めて営業所を構えました。
JR北海道のツインクルブランドを当社が企画・実施できるように提携し、来年度上期からは道内だけでなく、北海道から東北や首都圏に観光してもらう動きをつくる試みも行っていきます。北海道の観光流動で親和性が高いのは東北で、東北エリアと北海道の相互誘客など、非常に強みがあると考えて います。
ちなみにJRグループは、30周年を迎えた記念として9泊10日の商品をつくりました。北海道から九 州までのコースで高価格ですが、これはすぐに売り 切れとなりました。鉄道を切り口に、高価格・長期間であっても特色ある旅行商品に需要があると証明できた例といえるでしょう。
カウンター店舗は減っているものの、JR東日本 から当社が直営することになり、一層のサービス充 実に努めています。売り上げがもっとも多いびゅう プラザ仙台では、ディズニーランドが18年4月に35周年を迎えたことで売り上げを伸ばしました。さら に単価の高い遠い場所に行っていただける魅力のある商品をつくっていくこともミッションの1つといえます。首都圏でも店舗ごとにミッションが異 なっており、しっかり地域特性を踏まえた運営が求 められています。
一方で、オンライン販売にも舵を切っており、列 車と宿泊を自由に組み合わせることのできるダイナ ミックレールパックに注力しています。東日本エリアは15年12月、北陸では18年1月に販売を始めています。年々、オンライン販売比率は上がっており、 16年4〜11月は10%前後でしたが、18年は同期間 で20%前後で推移しています。他社との連携も進めており、ダイナミックレール パックは18年9月、トラベルコのサイト上での掲載 を始めました。
店舗とウェブのトレードオフというわけにはいきませんが、店舗販売額の落ち込みをいかにウェブで盛り返すかの模索をしている段階でもあります。
「アクティブシニアの旅と暮らしを応援する」をテーマに掲げる大人の休日倶楽部には、男性50〜64歳・女性50〜59歳のミドル(75万人)とミドルより年齢層が高いジパング(125万人)があり、当社は会員向けエスコート商品の販売や、カルチャー スクール(趣味の会)の運営もしています。
エスコート商品は成長が著しく、17年度は前年を大きく上回る伸びを記録しました。エスコート商品は会員向けからスタートしましたが、現在では誰でも購入できるようにラインナップを増やしています。たとえば夫婦での上質な旅を提供する高価格商品のフルムーンや、家族連れを想定したフレテミーナなどです。
なかでも昨年から始めた平均単価17万〜18万円の「贅なるひととき」は大変好評で、大きなニーズを感じています。JR北海道の悠悠旅倶楽部が大人の休日倶楽部に合併するなど、他エリアに旅行できるようにもなっています。また、JR西日本グループやJR東海グルー プの会員組織と連携して、関西や中部にお住まいのシニアの方が東北を旅行するような、お互いに選択肢を増やすことも始めています。
カルチャースクールは200を超える講座を開設しており、旅行先で作品や成果を発表するような取り組みは会員の満足度向上につながっています。デスティネーションキャンペーンのオープニングで発表したり、訪日旅行センターで写真作品を展示してもらったりしています。
トランスイート四季島は、東日本大震災の被害にあった東北をJR東日本グループとしてなんとか盛り上げていこうということで、フラッグシップとして17年2月に誕生しました。
「四季島」は上野駅を旅の起点とし、東日本エリアおよび北海道の各地域を回って、上野駅に帰着するクルーズトレインです。当社は、その旅行商品の企画や運営管理などを行っています。コンセプトは「深遊 探訪」で、「四季島」に乗っていただき、色濃く変わる四季の移ろいと今までにない体験や発見を通じて、まだ知らないことがあったという幸福を実感していただきたいと考えています。
震災後からすぐに構想を練り、コンセプトや車両をつくったので、かなりの突貫でしたが、運行後は 各方面より非常に好評を得ています。3泊4日の商品で100万円近くしますが、宿泊も食事もすべて含めたオールインクルーシブなので、海外エージェントからはもっと高くてもいいのではといった意見もいただいているところです。
17年5月から運休なく走らせてまいりましたが、北海道胆振東部地震の直後は、3回分の2週間ほど運休しました。その後、関係者の方々のご協力を得て、無事に再開することができました。予約から乗車まで1年ほどありますが、その間も一生の思い出に残るようなコーディネートをしています。
地方創生では、グループ内外の多様なリソースを活用しながら、取り組みを進めています。たとえば福井市との連携では、東京でのセミナー開催をはじめ、現地に行っていただく大人の休日倶楽部会員向けモニターツアーを行いました。
会員の満足度向上にもつながるなど、良いサイクルで回りだしているので、今後は大きな柱に育てていきたい分野でもあります。訪日事業では現在、東南アジアを中心にプロモーションを行い、旅行博などに出展しています。訪日外国人旅行者向けの特別企画乗車券「ジャパン・イースト・パス」を販売している強みを生かし、周知活動を行っています。今後は欧米豪市場にも目を向けていきたいと考えています。
かつては総合旅行業を目指した時代がありましたが、自分たちの強みのある分野での選択と集中を行った結果、海外旅行事業は縮小に向かいました。現在取り扱っているのは、ハワイ、グアム、台湾の3つの商品です。
しかし、これまで国内旅行商品しか売ってこなかった店舗で海外旅行商品を始めるなど、利用客の選択肢を増やすことにつながっており、そういった意味でも継続していきたいと考えています。当社は「旅とサービスを通じてお客さまの人生を豊かにします」を一貫したビジョンに掲げて活動し ています。さまざまな時代背景や変化を捉えながら、鉄道会社の旅行会社らしい良質な旅行サービスを提供していきます。
たかはし・ひろゆき●1967年生まれ。90年に東日本旅客鉄道(JR東日本)に入社。総務や経営企画の各部門を経て、千葉支社営業部 担当課長、営業部課長(営業戦略、企画)、東京支社営業部長など を歴任し、15年6月から営業部次長を務める。17年6月から現職。
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