2019年1月1日 2:31 PM
JATA(日本旅行業協会)は、会員企業の広報担当者向けの広報危機管理セミナーを実施し、広報駆け込み寺の三隅説夫代表が、インターネットやSNSが普及した時代に見合った真摯な広報対応の心構えを語った。
企業を取り巻く環境は、IT化の進展やメディアの多様化、消費者意識の高まりなどで大きく変化しています。あわせて、企業には社会的責任が伴い、情報公開や説明責任が一層求められています。また内部告発が増加しています。
そのようななか、当法人に駆け込む企業も増加傾向にあります。不祥事の際のメディア対応のほか、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどの相談も寄せられるようになりました。社会状況が変化し、マイナス面も含めていかに広報するのか、難しい時代になりました。しかし、企業を守る、巡り巡って顧客を守ることを考えれば、広報は経営機能として真剣に取り組む必要がある時代ともいえるでしょう。
まず、広報は企業が作った良いサービスや商品を知らせ、社会的信頼を得るという基本があります。広報には「攻め」と「守り」の両面があります。
攻めはいわゆるグッドニュースの発信で、事業のPRや企業のブランディングなどがそうです。一方で守りの広報はバッドニュース、危機管理の部分となります。
バッドニュースをいかに広報するのかが経営機能の面としても重要で、これに失敗すると企業がつぶれるケースもあり、誰もが広報感覚を身に付けなければならない時代といえます。企業絡みの不祥事や事件は、2000年の雪印の乳製品での大規模な食中毒事件以降、メディアが大きく取り上げるようになり、社会的に目立ち始めました。
最近では、16年の三菱自動車やスズキ自動車の燃費不正データ、タカタ製エアーバックの事件があり、旅行業界で話題となった軽井沢スキーバス転落事故のほか、神戸製鋼検査データ改ざん事件などがありました。またスポーツ関連の団体の不祥事が多く、日本レスリング協会のパワハラ問題、日本大学のアメリカンフットボールの悪質タックル問題など、企業や組織の不祥事のニュースは枚挙に暇がありません。
これらの事例をもとに、不祥事が起きた際に考えうる最悪のケースを見てみましょう。まず不祥事が発生します。それが内部告発などで露見し、報道などを通じて社会に拡散されます。会社が記者会見を行い、社会から多かれ少なかれ批判を浴びることになります。
そして社会問題化やトップの辞任に至り、最終的には事件化に発展するというものです。この悪循環は、企業・団体のレピュテーション低下とブランド価値の喪失、業績悪化といったことにつながり、企業に致命傷になりかねません。
不祥事が起きる企業体質はもちろん改善すべきですが、いかに不祥事を正しく真摯に広報するかも非常に大切になってきます。100のことが100として批判されるのは当然、甘んじて受け入れるべきです。
しかし、広報対応がお粗末で、100のことが200にも300にも増幅されて、大きな批判につながることが多々あります。このような最悪のケースを防ぐのが危機管理広報です。消費者側にとってみれば、インターネットとソーシャルメディアの台頭で、情報の受け取り方が多様化しました。消費者意識の高まりもあり、個人個人が、積極的に企業や商品の情報を発信することが当たり前となっています。もはや全員が新聞記者みたいになりました。
インターネットで必要以上に不祥事が責められることもある時代となり、危機管理としての広報はとりわけ重要になってきたともいえます。そもそもなぜこのような不祥事が起きるのか。不祥事を起こして下手な広報対応をする会社は、社会が変わったことをわかっていません
国際化、規制緩和の波が押し寄せ、積極的な情報公開、企業の説明責任が一層求められています。そのような背景があるにもかかわらず、大したことない、みんなやっている、これくらいならばれないだろう、などと高をくくり、経営者や企業がメンツや責任を恐れて問題が深刻化するまで先送りにされるケースが散見されます。マイナス情報は何らかの形で必ず社会に露見するということを肝に銘じておくべきです。
多種多様な不祥事がニュースをにぎわせますが、「うちに限ってはない」という思い込みもあります。しかし同じ業界で同じような不祥事が起こってしまいます。まったく学習効果がない。他社の事例分析し、他山の石として広報対応をいかにするのかシミュレーションを常日頃からやっておくことで
す。
営業成績や利益の追求が過度に行われると、コンプライアンスが度外視されます。悪い情報がトップや経営層に伝わらない風通しの悪さも多分にあるといえるでしょう
根本的な問題として理解してもらいたいのは、企業は社会的存在であり、多くのステークホルダーに支えられているということです。そのため、社会への責任が発生してきます。
法的、経済的、倫理的、社会貢献的といった責任が発生してきますが、これを果たすために必要な3つの体制は、法的・倫理的なルールを守るためのコンプライアンス体制、経営・社会貢献を果たす経営マネジメント体制、不祥事が起きたときの広報対応をする危機管理体制です。
このように企業に求められる役割や社会の流れを見ると、経営機能としての広報の役割はますます重要になってきました。基本は、「逃げない、隠さない、嘘をつかない」です。しっかりトップが逃げずに対応すること。真摯な謝罪、鍵を握る初期対応といった迅速な対応、全面的な情報開示、的確な説明を心がけていただきたい。
しかし経営者の会見や対応を見ると、必ずしも広報を重要と考えていないトップがいるように思います。広報が発信する対象は、株主のほか、一般消費者やサービス利用者を含めたステークホルダーという意識を常に持つべきです。メディアを通して、そういう方々に発信しているのです。
しかし、残念ながら、経営者のなかには勘違いをしている人が見受けられます。ある不正に関する会見の経営者は、顧客対応があるから会見に出てこない、といった人がいました。
ほかの事例では、記者の質問が残っているのに会見を終了し、退室する際に記者の質問に「俺は寝ていないんだ」と言い捨て、ひんしゅくを買いました。
いずれも言語道断です。会見は記者に向けてやるのではなく、その後ろにいるステークホルダーにやるのです。一般の人の代表として記者が訪れているという意識を持たなければなりません。
先ほど広報には「攻め」と「守り」があるといいましたが、常日頃から攻めの広報を積極的に行うことも守りの広報につながります。なぜなら、攻めの広報は企業の PRになるだけでなく、いざというときのためのメディアとの良好な関係を築くことにつながるからです。
日ごろから積極的に情報発信をすることで、メディアの求めている情報や特徴が分かってきます。メディア対応に慣れるという意味でも、攻めの広報は積極的にするべきです。取材が嫌だという社長もいますが、これはお客さまなどへの情報発信を拒否しているということにつながります。
これらを踏まえると、会社の規模によっては、独立した広報セクションの名前がなくとも、機能はしっかり持たなければいけません。たとえば、うちはBtoBだから広報はいらないという会社があります。
しかし広報は社会と共生していくには欠かせません。広報セクションは企業の窓口なのです。広報担当者の役割は、わが社は社会から信頼される企業になっているかと常に検討することです。そして、全社的にその考えを浸透させていく役目があります。
また、不祥事の際に、守るのはトップや経営者でなく、企業であり消費者という意識を持っていただきたい。トップが会見に出たがらない、情報を隠したがる、といった広報対応に後ろ向きな経営層にしっかり物申す気概を持っていただきたいと思います。
最近の不祥事について思うことは、トップの資質が問われているということです。不祥事を起こす経営層は責任逃れをする、本音は利益追求である、ばれなければいいと思っている、見てみぬふりをする、マイナス情報を嫌うといった傾向があります。
不祥事の防止や不祥事が起きてしまった際の広報対応は、企業の本質、トップの資質が問われているといっても過言ではありません。現場は基本的にがんばっています。経営陣が、利益を優先し、現場感のない無理な目標や体制を強いることが不祥事につながります。
トップは現場に出向き、コミュニケーションを積極的にとる必要があります。企業の一連の不祥事は、経営陣と現場の距離感がもたらしたものです。「トップが腐ると組織全体が腐る。トップがけじめをつけないと組織もけじめがつかない」ということです。
ある大手旅行会社の情報漏えい問題の会見の対応は見事でした。事前に想定問答をかなりやったのでしょう。記者の質問がなくなるまで、2時間半たっぷりと会見をしました。徹底的に腹を据えてやりました。ここまで真摯な対応をされると、メディア側も正確に報道せざるを得なくなります。
記者会見で頭を下げる経営陣の姿は日常茶飯事になりました。またか、とやりきれない気持ちになります。企業の経営陣にあったときに「広報は大切です」「広報部長はキーマン」と一様にいいますが、残念ながら現実はそうなっていない場合が多いと感じます。今一度、「広報って何?」と考えてみてほしいと思います。
みすみ・せつお●1940年生まれ。安田生命保険(現・明治安田生命保険)に入社後、広報畑を経て、取締役広報部長。メディア対応に関する研修会や支援を行う広報駆け込み寺を05年に発足させ現職。広報対応のスペシャリストとして講演など多数。
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