ファムツアー乱発してませんか、訪日ファン育成へ効果的企画を

2018.07.16 08:00

外国人客の誘致へ自治体が実施するファムツアーは増加傾向にあるが
(C)iStock.com/mothy20

訪日外国人客を誘致する手法の一つとして重視されるファムツアーが増加傾向にある。旺盛な訪日旅行需要への期待の反映でもあるが、「乱発」と問題点を指摘する声が聞こえてきた。自治体には費用対効果への苦悩もにじむ。

 海外の旅行会社やメディア関係者を招待し、地域の魅力を実際に見て体験してもらうファムツアーは、観光で海外に売り込みたい自治体にとって欠かせない取り組みだ。国際見本市への出展や首長のトップセールスと並ぶ定番のプロモーション手法といえる。トラベルジャーナルがこのほど全国47都道府県・20政令指定都市を対象に実施したアンケート調査でも、実施本数を増やしているとの回答が多く見られた(46都道府県、19政令指定都市、計65自治体が回答)。一方で招請コストの増大に対する懸念や招待客の選定の難しさに苦慮する意見も多く、ファムツアーの実施には課題も少なくない。

 17年度に海外からのファムツアーを実施した自治体は全体の93.8%に当たる61自治体に及ぶ。実施なしの自治体は少数派だが、さいたま市のように前年度には実施している自治体もあり、ファムツアーと無縁の自治体はごく例外的といえる。

 ほとんどの自治体が実施しているファムツアーだが、近年は実施本数がさらに増加傾向にあり、「増えた」との回答は47.7%の31自治体と約半数。逆に減ったとの回答は4自治体のみだった。

 ただし、ファムツアーに割く予算は必ずしも増えていない。予算が「増えている」との回答は17自治体(26.2%)にとどまり、「変わらない」が32自治体(49.2%)。「減っている」も9自治体(13.8%)あった。予算が「変わらない」と「減っている」で6割以上を占めるにもかかわらず、実施本数が「増えた」とする自治体が半数近くあり、コスト抑制の工夫などによって増えない予算の枠内で本数を増やしているようだ。

 各自治体がファムツアーの実施本数を増やす理由は、その効果を認めているからだ。「実施の効果はあるか」との質問に対する回答は、「とても効果がある」と「効果がある」を合わせると全体の81.5%の53自治体に達する。したがってプロモーションにおける位置づけも高く、実に全体の95.4%に相当する62自治体が「とても重要」ないしは「重要」と回答している。

 一方で課題についての指摘も多い。51自治体が挙げたのが「効果測定」。効果の有無について尋ねた質問では多くが「効果あり」と回答しているが、課題となっているのは単なる効果というより費用対効果だ。

足元見られコスト上昇

 横浜市は「観光資源を見てもらい、商品造成やメディア露出につなげることは重要と考えるが、費用対効果という視点からは効果が測りにくい」としている。「ファムツアーは非常にコストが高いため、招請者の人選など費用対効果を十分に検証したうえで実施する必要がある」とする新潟県や、「インフルエンサーを招請できるという営業が増えたが、よくみるとあまり効果が期待できなかったり、期待できる効果と比べて高額すぎたりすることが少なくない」という佐賀県も費用対効果に言及している。いずれも人選との関係が深く、横浜市は「被招請
者の資質によって効果が大きく左右される」と言い切る。実際に「招請対象者の適切な人選」を課題に挙げたのは43自治体で、効果測定に次いで多い。

 さらに、自治体の疑念を増幅させているのが招請コストの上昇だ。岐阜県は「全国の自治体がただ観光地等を見せるだけの招請を乱発しており、費用対効果の低い招請が多いと感じる」と指摘すると同時に、「資金が潤沢な自治体等がメディアに対し掲載経費として多額の費用を支払ってきたため、相場が高騰している」と嘆く。「ブロガー招請者の謝金の高騰化」を課題の一つに挙げる静岡市は、「かつては滞在費の負担だけで招請できたが、今では滞在費にプラスして多額のギャラを支払わなければ応じてもらえないようになってきた」と説明する。東北や九州などの震災復興がらみの予算や沖縄の地域振興予算から多くの資金が流れ込み、相場を引き上げやすい環境があるため、「日本側が足元を見られている」とする意見もある。茨城県は「相手の旅行会社やメディアが招請慣れしているため、費用負担やアテンド等の対応範囲、事業成果の見極めが課題」とみる。

 費用の高騰に対応するため、自治体側も工夫を重ねている。岐阜県は近隣3県など広域連携で実施し、費用負担を分散化。佐賀県は訪日外国人の趣味・嗜好が多様化していることもあり、1グループの人数を減らし、実施本数を増やすといった調整を行っている。「国内在住の海外メディア、ユーチューバー等を含むウェブ関連ライター、留学生なども織り交ぜることで、少なくとも航空券代分は抑制できる」とするのは新潟市。また、千葉市は、「現地との仲介を代理店に委託することが多いが、今後は現地側と直接やり取りできるネットワークや人脈を作ることで費用は抑制できる」とみている。

 ファムツアーをむやみに乱発していては、効果どころかこうした弊害を招きかねない。効果的な手法の確立に向け、実施のあり方を見つめ直すべき時期ではないか──。特集ではそんな問いかけをしていきたい。

【続きは週刊トラベルジャーナル18年7月16日号で】