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観光大国メキシコの将来像を示す、43回目迎えたティアンギス

2018年7月2日 8:00 AM

会場となったマサトラン国際センター

メキシコ観光省とメキシコ観光局が主催するBtoBの旅行博「ティアンギス・トゥリスティコ」が18年も開催された。17年の訪問客数で世界6位の観光大国メキシコ。その急成長の背景にあるものとは何か。

 中南米最大の旅行博「ティアンギス・トゥリスティコ」が18年4月14~18日の5日間、シナロア州マサトランで開催された。今年で43回目を迎えたこのイベントは、1975年にアカプルコで開催されたのを皮切りに毎年行われており、自然や遺跡、音楽、食、祭りなど、メキシコが誇る多彩な観光素材を世界に示すショーケースとなっている。

 バイヤーは国内外を合わせて935社1514人(メキシコ国内が358社778人、海外は63カ国から577社736人)が訪れ、会期中には4万4714件の商談が行われた。日本からはJTB、ファイブスタークラブ、朝日旅行、旅工房などが参加している。北米、中南米はもちろん、欧州、中近東、アフリカ、アジア、オセアニアと、ほぼ世界全域からバイヤーが訪れており、メキシコの人気を証明する形となった。

 今年のティアンギスのハイライトは、メキシコのエンリケ・デラマドリー観光相が、世界観光機関(UNWTO)の17年統計で、メキシコへの旅行者数が前年比12%増の3930万人を記録し、訪問客数で世界6位になったということを発表したことだ。16年から2つ、13年からは9つランクを上げており、ランキング上位国において、わずか4年のうちに旅行者数が62%も上昇した例は過去にも例がないという。

 この急成長の要因について、マドリード観光相は次のようにコメントしている。「この結果は新旧のデスティネーション開発に向けての投資、観光素材の多様化、航空会社、ホテル、旅行業界との強固なパートナーシップ、さらにはメキシコが誇るホスピタリティがもたらしたものだ。また、メキシコには独自の世界や魅力が存在し、それを目指して多くの人が何度も再訪している証明でもある。今後は年間5000万人の受け入れを目指したい」。

 国別に見ていくと、最大の市場である米国が9.6%増、2位のカナダが12.8%増となっただけでなく、アルゼンチンが20.3%増、ブラジルが22.1%増、コロンビアが10.2%増と南米の主要市場も好調に推移した。また欧州ではフランス、ドイツが10%前後の伸びを見せた。

 注目すべきは日本からの旅行者が前年比18.3%増の11万5000人を記録し、中国(16.2%増)、韓国(18.5%増)と共に東アジアの市場を形成していることだ。元アエロメヒコ航空(AM)副社長のジャレッド・ハークハム氏が行った講演によると、13年から18年の間に東アジアとメキシコを結ぶ直行便は15%増えており、中南米の18%に次ぐ伸び率を示している。日本ではAMの既存路線に加えて、17年2月に全日空(NH)が成田/メキシコシティ線を就航、同年5月にはAMがソウル/メキシコシティ線を就航した。また、今年9月にはAMと日本航空(JL)のコードシェア運航が予定されており、日本、メキシコ双方の国内路線への送客も期待されている。

デラマドリー観光相
パネルディスカッション

同じ文化を持つ隣国と提携

 メキシコはこの10年間で外国人旅行者を受け入れるため、さまざまな法整備を行ってきた。07年以降、米国、日本、カナダ、英国、シェンゲン協定加盟国、太平洋同盟加盟国に、観光ビザの取得条件を緩和したほか、15年に米国とオープンスカイ協定を締結したことで、航空路線も加速度的に拡大した。さらに歴史的建造物を擁する魅力的な町を「プエブロ・マヒコ(魔法の村)」として PRしてきたほか、F1メキシコグランプリ、米プロフットボールリーグ(NFL)公式戦や PGAツアーも積極的に開催している。

 長期的な観光プロモーションとしては、「ムンド・マヤ・オーガニゼーション」の活動が特徴的だ。これはマヤ文明が栄えた5カ国(メキシコ、ベリーズ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)で構成される団体で、マヤ文明の遺跡保全と各地域と各地を結ぶ広域観光の活性化を目指している。5カ国の代表が登壇したパネルディスカッションでは、共同でプロモーションやマーケティングを行う意義やアクセスの課題などについて話し合われた。

 グアテマラ観光局のホルヘ・マリオ・チャホンCEOは観光がもたらす経済効果に言及し、「マヤ文明の古代遺跡は大都市のそばに集中しているわけではない。それが国内全域に観光客を呼び、各地域の経済活動を活発にしている。グアテマラでは、古代遺跡の周辺に極貧あるいは生活困窮者が暮らしていることも少なくない。観光による収益が地元に落ち、彼らの生活レベルが上がれば不法移民も減るため、観光の意義は大きい」とコメントしている。

日本市場における課題

 17年にメキシコを訪れた日本在住者は前年比18.3%増の約11万5000人(日本国籍保有者は同13.6%増の15万1000人)。アジアでは最大の市場で、18年1~3月も10%増を記録した。メキシコ観光局のギジェルモ・エギアルテ駐日代表によると、これは日本からメキシコへの投資が活発に行われ、ビジネスやMICE渡航が伸びた結果という。同局では18年は日本在住者で15万人、日本国籍保有者で18万5000人の渡航を見込んでいる。

 その一方で観光需要については、「メキシコの目玉商品である遺跡巡りのツアーは、熟年層、富裕層を中心に人気を集めてきたが、17年の年末以降、需要が下降気味。市場に出回る各社の旅行商品が似通っていて、旅行者の興味が薄れてきている。特に富裕層においては、メキシコの競合デスティネーションである欧州を選択する傾向も顕著になっている」(AM日本支社)。それだけに観光局、AMの双方から今後の課題として、メキシコの多様な魅力をさまざまな層にアピールし、セグメントを広げていくことの重要性が指摘されている。

 「遺跡以外の観光を取りあげるだけでなく、熟年向けのウェブ商品を充実させることも大切。さらに20~ 30代の旅行者にも目を向け、食文化体験やテキーラ村の訪問、女性に人気の民芸品やプロレス観戦など、さまざまな素材を取りあげ、女子旅や卒業旅行にも対応できるよう、各業界とタイアップしてプロモーションすることが必要不可欠」(AM日本支社)

 「メキシコの観光資源は団塊世代やミレニアル世代、家族旅行、新婚旅行、法人など、幅広い消費者層に響く。観光局が掲げるキャッチフレーズ『唯一無二の世界、メキシコ』は、一度メキシコを訪れた方にも、数多くの観光資源を楽しむために再訪を促すものだ。現在の状況をチャンスと捉え、旅行会社や航空会社とともに包括的なアプローチを実現し新しいセグメントを開拓したい。また地方からの渡航者を増やすため、日本全域でプロモーションしていく」(エギアルテ駐日代表)

魔法の村エル・ロサリオ
ディナーパーティーで

写真提供/メキシコ観光局