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おもてなしはどこへ、後退するニッポンの接客サービス力

2018年5月21日 8:00 AM

日本のおもてなしはいまや世界に誇れる水準にないのではないか
(C)MIXA/PIXTA

世界に誇る日本のおもてなし──。日本人の多くはそう自負しているが、本当だろうか。特に訪日外国人旅行者の急増と労働力不足が重なる最近は、現場の接客サービス力の低下も指摘されている。いま、ニッポンのおもてなしが危ない。

 玄関前には女将を先頭に仲居や従業員がズラリと並び、深々とお辞儀をして観光客が乗ったバスを送り出し、バスが見えなくなるまで手を振り続ける。日本各地の旅館で普通に見る光景だ。何事にも最後まで手を抜かず、全員が一丸となりきちんと対応する日本流おもてなしの象徴的な光景でもある。送り出される側も気持ち良く出発できることは間違いない。

 新幹線の清掃員の仕事ぶりが「奇跡の7分間」として世界的にも注目されていることからもわかるように、日本人が持つ几帳面さや責任感、細部にこだわる良さは、サービス業において強みを発揮するものだ。

 もっとも、たとえば冒頭のようなお見送りについて、複数の旅館で同じような対応を何度か経験すると、どこかマニュアル対応的な印象を受けてしまう旅行者がいてもおかしくない。また明確な目標設定や、行動ルールがあれば素晴らしく機能する日本流おもてなしだが、それがない場面での臨機応変な対応という点では、日本人の几帳面さやこだわりが逆に足を引っ張りかねない。

 観光客に公開されている文化財や歴史的建造物などで、立ち入り禁止エリアに一歩でも入りそうになれば、警備員が血相変えて駆け付け厳しく注意する。厳格な対応としては正しいが、うっかりはみ出そうになってしまっただけの観光客への同様な対応はいかがなものか。そういう指摘もある。

 確かに日本流おもてなしがすべてにおいて素晴らしいかは議論のあるところだ。それでも観光庁がかつて実施した観光案内所に対する実態調査アンケートでは、外国人利用者から「大変親切で丁寧な対応である」「細かい案内をスタッフがしてくれる」「礼儀正しい」「英語はうまく通じないが、素敵な笑顔と一生懸命説明してくれる姿が感動的」といったコメントが寄せられている。観光案内所という特別な場所に関する調査である点を差し引いても、日本のおもてなしは外国人旅行者から高く評価されているようだ。

 ところが、その日本流おもてなしそのものが揺らぎ始めている。日本インバウンド連合会理事長を務めるジャパンインバウンドソリューションズの中村好明代表取締役社長は本誌2月12日号「視座」で、「日本のおもてなしは、近年危機的な状況にあると諸外国から帰国するたび実感する。大半の接客は暗記したマニュアルの棒読み、うわべだけの慇懃無礼。イレギュラーなことが起こると不機嫌になり低質な対応。臨機応変な接客に出くわすことはまれだ。人手不足も相まって、国内の現場の劣化は深刻化している」と警鐘を鳴らした。

 日本流の懇切丁寧なおもてなしだけを追求するのでは不十分と考えられるし、むしろ場面に応じてシンプルな対応と日本流おもてなしを使い分ける柔軟性こそ重要になるともいえる。訪日外国人が急カーブを描いて増える一方で、中村社長も指摘する人手不足が相まって、混乱状態に陥る現場も少なくない。特に外国人団体客への対応や、外国人客と国内客が重なる週末の混雑時の対応では問題が噴出しているとの指摘を見聞きする。曰く、「飲食店で注文したはずの料理がいつまでたっても届かない」「オーダーを取りに来るまでに時間がかかる」「団体客相手とはいえ配膳作業が雑すぎる」等々。

 中国出身の知日派ジャーナリスト・莫邦富氏は、数年前からメディアで日本のサービス力が低下傾向にあることを指摘する記事を発信し続けてきた。莫氏によればこの傾向は、最近になって歯止めがかかるどころか地域的な広がりを見せているという。「サービス全体を見れば、日本のサービスはまだまだ中国をリードしていると思うし、空港などではサービスの改善が目立っている。一方で、インバウンド分野におけるサービスの低下現象は日本全国レベルで見られるようになっている。特に関西、京都などがひどい。東京の銀座などでもひどい状況を目
にする。日本のことをよく知る中国人社会では広く認識されつつある問題だ」と指摘する。

失われつつある日本の特性

 至れり尽くせりの日本流おもてなしは、時に過剰サービスとして疑問視され、日本のサービス産業の労働生産性の低さの元凶と批判されることもある。「日本人の自己満足」だとの厳しい見方もある。それでも日本流おもてなしは、日本人の国民性に合った接遇方法として洗練され、磨かれてきたものであったはずだ。それが失われつつあるとしたら大きな問題である。

 もちろん、ホテルやレストラン、販売の現場で素晴らしい接客サービスを受けることもあるが、残念なサービスに遭遇することも増えている。そんな日本の現状を憂える莫氏は「サービスとおもてなしの良さを失くしてしまえば、日本旅行の魅力は大きく色褪せてしまう恐れがある。だから、私はこれまで何度もメディアを通して日本社会に向けてこの問題に対する警鐘を鳴らしている。ぜひ日本の良さを保てるように日本の皆さんに頑張っていただきたい」と叱咤激励する。いまニッポンのおもてなしの力が後退しているのではないか ─。特集ではそんな問いかけをしていきたい。

【続きは週刊トラベルジャーナル18年5月21日号で】[1]

Endnotes:
  1. 【続きは週刊トラベルジャーナル18年5月21日号で】: https://www.tjnet.co.jp/2018/05/21/2018%e5%b9%b45%e6%9c%8821%e6%97%a5%e5%8f%b7%ef%bc%9e%e3%81%8a%e3%82%82%e3%81%a6%e3%81%aa%e3%81%97%e3%81%af%e3%81%a9%e3%81%93%e3%81%b8-%e5%be%8c%e9%80%80%e3%81%99%e3%82%8b%e3%83%8b%e3%83%83%e3%83%9d/