ホテルコミッション、マリオット・ヒルトンが団体予約で引き下げ

2018.04.30 08:00

いずれ航空券販売のような道をたどるのか
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マリオット・インターナショナルが18年1月、団体予約のコミッションを削減する方針を打ち出すと、3月にはヒルトン・ワールドワイドが追随の動きを示した。米国の巨大ホテルチェーンと旅行業界の関係がざわついている。

 マリオット・インターナショナルは1月、10室以上の団体予約を行う旅行会社とミーティングプランナーを対象に、これまで10%としてきたコミッション(販売手数料)を7%に引き下げる意向を表明した。対象となるのは北米にあるマリオット傘下のホテルで、それ以外の地域のホテルに関してはこれまで通りのコミッションが適用される。

 マリオット・インターナショナルといえば、マリオットブランドの他にザ・リッツ・カールトンやルネッサンス・ホテルといった有力ブランドを傘下に持ち、さらに16年にはスターウッドホテル&リゾートを買収してウェスティン、シェラトン、メリディアンといった世界的ブランドまで手に入れた最大級のホテルグループだけに、この話題は米国の旅行業界を騒然とさせた。米国の旅行業界誌はアルマゲドン(最終戦争)という言葉まで使って今回の騒動を報じている。

 米国の旅行業界誌の取材に対してアコーやオムニ・ホテルズ&リゾート、ウィンダム、プリファード・ホテルズ&リゾーツは、当面コミッション引き下げを行わないコメントを行っており、ヒルトン・ワールドワイドやインターコンチネンタルホテルズグループ、ハイアットホテルズ&リゾーツはコメントを拒んでいると報道された。

 しかし3月になるとヒルトン・ワールドワイドがマリオットに追随して同じくコミッションを10%から7%に引き下げる意向を表明。ただしコミッションの削減が始まるのはマリオットが3月31日からであるのに対し、ヒルトンは10月1日からと、比較的、時間的余裕がある。マリオットは意向表明と実施時期の間が短い点についても旅行業界側からの反発と抵抗が大きかっただけに、移行期間には配慮した格好だ。

 いずれにしても、世界最大級の規模を持ち北米におけるホテルビジネスの収益額に関して1位と2位に位置するホテルチェーンが揃ってコミッション削減に踏み切ったわけだ。米国旅行業界には失望と反発が広がっている。

 米国旅行業協会(ASTA)はマリオットが意向を表明した直後の1月24日にゼイン・カービイ会長が声明を発表。ヒルトンのアナウンスを受けて3月23日にも声明を出し「かけがえのない役割を果たすトラベルエージェントに対する期待が高まる中で、パートナーであるサプライヤーが逆の方向へ向けて動いてしまうことが残念でならない」と失望を露わにした。

 マリオットやヒルトンは、なぜコミッションカットに動いたのか。両社の言い分を総合すると、フランチャイズ形式のホテル運営が多くを占める現在のビジネス形態を考えると、オーナー側に対してより多くを還元することでホテルへの新たな投資を引き出し、施設やサービスを拡充しカスタマーエクスペリエンスの向上を図らなければ生き残れない。その原資としてコミッションの削減分を充当したい─ ─という理屈だ。

 しかしこれは建前で、別の意図が隠されているとの見方もある。直販強化の意図がそれで、ロイヤリティプログラムなどの強化により直販化の環境が整いつつあるタイミングを見計らって今回の措置に踏み切ったという解釈だ。特にマリオットに関しては、スターウッド買収に伴うロイヤリティプログラムの統合で、強力な顧客組織を構築できたタイミングと重なることがその論拠となっている。また、これまで以上に大きなシェアを持つことになり、旅行業界は多少のあつれきがあってもマリオットを売らざるを得ない地位を手に入れたという判断が働いたとの見方もある。

 大手ホテルにとって団体客の販売効率が悪いことも理由として指摘されている。団体販売に関しては、収益増より速いペースで販売コストが増大する傾向にあり、ある調査では独立系の小ホテルや、300室程度のホテルを展開する中堅ホテルチェーンでは、客室収入に対する販売コストが7~8%であるのに対し、500室を超える規模が多い大手ブランドの場合は比率が16%程度に及んでいるとされている。こうした効率の悪さを改善するためにコミッション削減に走ったというのだ。

上乗せ指示する競合も

 この削減は序章に過ぎないという見方もある。ホテルが団体販売で得る客室収入に対して、飲食や照明・音響、その他演出費等の付帯サービスから得る収入は3倍近いとの調査データもあり、コミッション削減の影響で低下する団体関係の総売り上げを考えれば、3ポイント程度の削減では割が合わない。したがって、早い段階で5%への再引き下げがあるというのだ。

 2大ホテルチェーンによるコミッション削減の動きを、商機と捉えているのが競合ホテルだ。マリオットやヒルトンのアナウンスを受けて、期間限定でコミッションの上乗せキャンペーンを実施するホテルが相次いでいる。プリファード・ホテルズ&リゾーツは早速、コミッションを1ポイント上乗せして11%とする60日間限定のキャンペーンを発表した。独立系ホテルや中小チェーあンの中には、12%や14%といった特別なコミッション率を提示しているケースもある。コミッション削減をめぐる流動的な状況は、まだしばらく続きそうだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル18年4月30日号で】