観光のインパクト、持続可能なツーリズムの実現へ

2017.01.02 14:54

持続可能な観光へ日本の観光・旅行産業の役割が問われている
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国際観光市場の成長力とそれに伴う経済効果に世界中の視線が注がれている。一方で、自然環境や生態系、地域の文化や市民生活に与える観光の負のインパクトについて、直視する機会はあまりない。折しも2017年は国連が定める「持続可能な観光国際年」。持続的な観光の発展へ、日本のツーリズム産業の責任と役割を考える。

 国連は15年12月の総会において、17年を「持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development)」とする決議を採択した。国連が観光をテーマに国際年を設定するのは、世界各国に観光振興に関する政策の推進を要請した1967年の国際観光年、観光に持続可能な開発の視点を取り入れる重要性を訴えた2002年の国際エコツーリズム年に次いで15年ぶり3回目のことだ。

 持続可能な観光国際年を決めた総会に先立つ15年9月には、国連が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択しており、これに盛られた観光に関連するアジェンダの遂行を後押しするのが持続可能な観光国際年設定の狙いだ。

 では、持続可能な開発のための2030アジェンダにはどのような観光関連の取り組みが掲げられているのか。同アジェンダには17の「持続可能な開発目標」(SDGs)と169のターゲットが定められ、このうち観光に直接関連するターゲットは3つある。

 第1に目標8「持続可能な経済成長と人にふさわしい仕事の推進」のターゲット「30年までに雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する」。第2に目標12「責任ある消費と生産の確保」のターゲット「雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する」。第3に目標14「海洋資源の保存」のターゲット「30年までに漁業、水産業および観光の持続可能な管理などを通じ、小島しょ開発途上国および後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる」である。

 このほか、目標11「安全なまち・地域社会への転換」で取り上げられている「世界の文化遺産および自然遺産の保護・保全の努力を強化する」も関連する。

 なお、15年12月の総会では、持続可能な観光国際年を決定すると同時に日本を含む国連加盟国に対し、国際年の取り組みが実効性あるものになるよう念を押している。

 持続可能な観光の重要性に言及するのは国連に限らない。経済協力開発機構(OECD)は「OECD観光のトレンドと政策2016年版」で「観光業が直面している主要な課題として、国際観光客の急増、新たな消費者トレンド、経済のデジタル化、安全保障の問題、気候変動への対応などが挙げられる。これらの課題に対処するには、観光が競争力ある部門としての地位を保ち、今後も引き続き経済性 と持続可能性を実現できるようにする積極的、革新的、総合的な政策対応が必要となる」と指摘している。

 また16年5月にペルーのリマで開催された第9回APEC観光大臣会合では、観光が持続可能な発展や平和に重要な役割を果たすことを盛り込んだ「リマ宣言」が採択された。

 日本ではツーリズムEXPOジャパン2016のアジア・ツーリズム・リーダーズ・フォーラムにおいて「持続可能な観光の発展が世界において重要な政策である」や「アジアが世界の持続可能な観光の発展をリードする」などを含む4項目からなる「東京宣言2016」を発表している。

影響の大きさゆえに

 国際機関や国際会議において、持続可能な観光がこれほど重要なテーマとして頻繁に取り上げられるのは、観光産業のインパクトの大きさの裏返しで、そのインパクトの大きさゆえに野放図な観光の拡大は持続性を損ないかねないからでもある。

 国連世界観光機関(UNWTO)によれば、観光産業は世界のGDPの10%(直接的・間接的および誘発的影響含む)を占め、全世界の輸出の7%に相当する1.5兆ドル規模の巨大な輸出産業で、国際観光客到着数(15年)は11億8600万人で、30年には18億人に達すると見込まれる成長産業でもある。

 世界の有名観光地では観光のインパクトが環境や地域コミュニティー、文化の破壊につながっている例も少なくない。ペルーのマチュピチュ、メキシコのテオティワカン、英国のストーンヘンジ、中国の万里の長城といった名だたる観光地では殺到する観光客により遺跡の損傷が危惧され、エクアドルのガラパゴスやオーストラリアのグレートバリアリーフ、ボリビアのウユニ塩湖では観光開発の環境面の弊害が指摘される事態も起きている。またオーストラリアのエアーズロック(ウルル)では、原住民にとっての神聖な場所が観光客によって荒らされているとの批判もある。

 日本においても世界遺産登録後に登山客が急増し環境破壊が加速する富士山や、同じく世界遺産の白神山地も観光客のマナー悪化により危機にさらされている。いずれも観光産業にとっては大きな損失につながりかねない問題だ。

 UNWTOが掲げる持続可能な観光開発の条件である「観光資源の利用の最適化」「ホストコミュニティーの文化の尊重」「長期的経済活動の保証」をクリアし、バランスを図るには、観光の持つ巨大なインパクトを適切にコントロールする知恵が求められる。それは言うまでもなく観光産業自らのために絞らなければならない知恵である。

【続きは週刊トラベルジャーナル17年1月2・9日号で】

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