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キーパーソン100人に聞く2020年 IT進化、人材育成、ビジネス改革が鍵

2016年4月18日 8:00 AM

20年の日本を眺めれば、東京五輪が開催され世界中から注目を集めているはずだ。一方で、消費を牽引してきた団塊世代の高齢化が進み、市場から退場し始めるタイミングを迎える。ツーリズム産業はどのような姿に変貌しているのか。キーパーソンの視点を通じて展望する。

 トラベルジャーナルは旅行会社や航空会社、宿泊施設、各種運輸機関、観光関連事業者、シンクタンク、大学、観光局、自治体などのキーパーソン179人にアンケート調査を行い、104人から回答を得た。

 まず、「20年のツーリズムビジネスについてどのように展望しているか」を聞いたところ、約7割が「拡大している」と回答。「どちらかというと拡大」を加えると全体の約9割が拡大傾向を予想し、ポジティブな展望を持つことがわかった。理由はやはり、訪日旅行の成長と五輪効果だ。「インバウンドはまだまだ成長が見込まれ、オリンピックはまさに日本がこれまで以上に世界から注目される絶好の機会。(訪日旅行の)規模は今の2倍になってもおかしくない」(ブッキング・ドットコム・ジャパンのジェームス・ホワイトモア北アジア地区統括リージョナルディレクター)が象徴的な回答だ。また、「観光産業へのかかわりが多様化し、従来、ツーリズムビジネスと捉えられなかった事業もツーリズムビジネスに取り込まれていくと予想される」(和歌山大学観光学部・廣岡裕一教授)ことも根拠となっている。

 観光の役割を踏まえた意思表示といえるコメントも寄せられた。「日本社会が着実な経済発展を図っていくため、観光の振興、特に訪日旅行の推進と地方創生の実現に向けた施策が講じられている。外交、産業振興、教育、文化、スポーツ、地方創生など幅広い分野で観光が頼られる存在になる」(日本旅行業協会・田川博己会長)がそれだ。

ITの存在に期待と不安

 そこで訪日、海外、国内の3分野に分け、それぞれの展望を探った。15年の市場規模を100とした場合の20年の指数を尋ねたところ、訪日旅行は好調との予想が如実に数字に表れた。「150」が最も多く約4割を占め、「200」~「300」が1割以上。減少を示す「100」未満は2件のみだった。これに対して海外旅行は「120」が約2割と最多で、「102」~「150」と成長を予想したのは約6割に上るが、横ばいを示す「100」が1割強、「100」未満が約4分の1と悲観的な見方も少なくない。国内は約2割を占めた「110」が最も多く、「101」~「120」のプラス予想が全体の7割に上った。

 ツーリズム産業を取り巻く環境が急速に変わりゆくなか、事業形態も変化を余儀なくされる。20年に最も変化する業態では、「オンライン旅行会社」(48.1%)、「シェアリングサービス」(39.4%)、「ITサービス」(38.5%)が他を引き離して上位に並んだ。いずれもITの進化が大きな影響を与えるとの見方があり、「ITの発展はすでに従来の旅行業のあり方を根本的に変えようとしている。今後もこの傾向に変わりはない」(欧州系観光局幹部)との回答に多くの意見が集約されている。

 こうした変化は、「シェアリングエコノミーは疑いなく拡大し、IT技術の進展ともリンクして、既存設備の有効利用がより活発になっていく」(エクスポート・ジャパン・高岡謙二代表取締役)と前向きな見方がある一方で、「市場が成熟し個人が手配できることが増え、旅行会社、ツアーオペレーターの存在が必要とされなくなる可能性がある」(旅行会社経営者)との危機感にもつながっている。

求められる改革への姿勢

 それでは、20年のツーリズムビジネスにはどんな機能が求められるのか。「外国人観光客の受け入れ」と「観光人材の育成」がともに38.5%を占めトップで、「既存ビジネスのイノベーション」(32.7%)、「さまざまな業種との連携推進」(30.8%)と続いた。「観光を出発点に地域での経済循環を構築するためには、農業・漁業、商工業など多様な産業としっかり連動できる産業基盤の確立が必須。観光が他の産業をリードし、流通の変革、異業種間連携による価値創造が求められている」(公益財団法人日本交通公社・志賀典人会長)というように、これらは相互に関わり合う。

 特にツーリズム業界が自ら改革していく必要性への指摘は少なくない。「今、日本市場のトピックはほぼ外的要因によるもので、自身で作り出してきたものは非常に少ない。継続的な成長を進めるには既存の枠を超えたイノベーションの議論が必要」(ホテル・リザベーション・サービス・三島健代表取締役社長)、「変化する時代に沿った新たなサービスを起こそうとする際、他の分野、省庁同士で既得権を守ろうとするなど、ぶつかる規制が多すぎる。治安維持と規制撤廃を併せて行い、誰でも自由に仕事のできる市場をつくることが求められている」(SPIあ・える倶楽部・篠塚恭一代表取締役社長)、「現在のツーリズムビジネスは高度成長期にビジネスモデルが完成し、賞味期限が切れかかっている。投資のしやすさと投資の量の拡大、異質な発想の導入が不可欠」(淑徳大学経営学部・奥山隆哉特任教授)などがその代表だ。「もはや観光産業という概念が疲労してきているのかもしれない。国際的な交流人口の拡大を背景とした新しい産業軸が必要」(ソーシャルデザイナー・渡邉賢一氏)と広い視野に立った意見もあった。

 「国際旅行市場への対応」(20.2%)も関心が高く、「レジャー需要はビジネス需要の後に起こるケースが歴史的に見ても多い。新興国を中心とする国際旅行市場への対応が、ビジネス、レジャーともに必要」(エイチ・アイ・エス・平林朗代表取締役社長)とする。

 一方、人材育成を必要とする背景には現状への危機感がある。「人材の不足が著しい。他の産業と比較し、人材を育成する努力を怠ってきたことは否めない」(国内ホテルチェーン幹部)。これは「従業員の待遇上昇」(10.6%)と密接に関係し、「学生が旅行・ホテルと航空・鉄道の両方から内定をもらうと、100%交通へ行ってしまう。何とかしないと人材がいなくなる」(東洋大学・森下晶美教授)との回答は就職活動の実態を知る立場からの報告として見逃せない。

 将来を展望するうえで懸念もある。上位を占めたのは安心・安全にかかわる問題。回答が群を抜いて多かったのは「国際情勢の悪化」(60.6%)で、次いで「テロや事件・事故の多発」(44.2%)、「地球温暖化」(25.0%)。21世紀に入ってから毎年のようにテロ事件や事故、自然災害に悩まされ、大きなダメージを受け続けてきた観光事業者がこうした事象を警戒するのは無理もない。「海外旅行離れ」(23.1%)も繰り返し指摘されてきた課題で大きな不安としてのしかかる。

未来をつくるのは自分自身

 ここに来てロボットやAI(人工知能)を活用した新たなサービスの試行が加速しているが、英スカイスキャナーが14年にまとめた「未来旅行白書」では、最新技術を駆使した10年後の旅行の姿が描かれている。本誌はそこから10項目を選び、20年に一般化していると思われるものを尋ねた。

 その結果、「eエージェントが個人に合った旅先や旅程を提案」(66.3%)、「空港での一連の搭乗手続きなどが完全自動化」(45.2%)、「嗜好や行動スタイルなどを熟知した人工知能により提案内容がパーソナライズ化」(36.5%)がトップ3。「宇宙旅行(無重力体験ツアー)が手軽な短期旅行商品に」(11.5%)は多数とはならなかったが、「ツーリズムは宇宙旅行やITを使ったイノベーションを生み出せるかどうかに成否がかかっている。その中心に旅行会社がなれるかどうかが重要」(クラブツーリズム・スペースツアーズ・浅川恵司代表取締役社長)との意見はあるべき姿勢を示している。

 そんな未来は誰が牽引するのか。期待される業態として、「オンライン旅行会社」(38.5%)と「ITサービス」(33.7%)が1・2位を占めた。「鮮度の高い情報提供とシステムソリューションをもとに24時間365日対応できるオンラインは、動機付けから実現までの重要な役割をすでに担っている。需要開拓への貢献を期待したい」(アジア系航空会社幹部)との理由が多くを代弁する。

 今注目の「DMO」(32.7%)や「旅行会社」(27.9%)を挙げる回答も少なくない。「サプライヤーの直販がますます進行するとはいえ、牽引役としてはふさわしくないと思われる。むしろコンサル機能を一層充実させることを前提として、旅行会社(発地型)とDMO(着地型)に期待したい」(ブルーム・アンド・グロウ・橋本亮一代表取締役)

 20年は大きな節目とはいえ通過点にすぎない。キーパーソンは20年以降をどう展望しているのか。回答は「大変希望が持てる」と「希望が持てる」で約8割を占めた。多くは訪日旅行に的を絞ったものだが、「ツーリズムビジネスは産業の裾野が広い。少子高齢化、都市と地方の格差等の課題を解決に導けるものと確信している」(西武ホールディングス・後藤高志代表取締役社長)と担う役割の大きさへの期待も示された。

 関係者自身の意識を問う声も目立った。「希望が持てるか否かは、今日、ツーリズムビジネスに従事する者の先進性、柔軟性、実力の伴ったプロフェッショナリズムにかかっている」(オーストリア航空・村上昌雄日本・韓国支社長)、「将来に希望が持てるようにする責任を感じて行動したい」(ユー・ティ・アイ・ジャパン・井上照夫代表取締役社長)。また、「訪日旅行の好調に浮かれているが、海外旅行、国内旅行は苦戦している。この苦境は反省・反転のチャンス。新しい価値の創造、サービスの希求に取り組む時だ」(日本エコツーリズム協会・辻野啓一理事・事務局長)との意見は関係者が共有できる視点といえそうだ。